-人工知能を備えた人工心臓-
概 要
人類最大の死亡原因は心不全であり,この疾患に挑戦するために,アポロ計画に次ぐ米国の国家プロジェクトとして,1960年代に“神への挑戦”と言われた人工心臓開発が始まりました.時を経て現在,我々の研究グループではより優れた生存率と患者のQOLを実現すべく,人工知能を備えた人工心臓の開発に取り組んでいます.
人工心臓は体内に埋め込む制約から,必要最小限のセンサしか使えません.そこで当グループでは最新の磁気浮上型人工心臓をターゲットとし,磁気浮上システムそのものをバイタルセンサとして応用し,機械学習等と組合わせることで新機能を創生しています.

心拍同期制御

磁気浮上型人工心臓は,通常,血液を吐出する羽根車(インペラ)を一定回転させます.即ち,人工心臓が送り出す血液には拍動がありません.
本来,生体をめぐる血液は心臓の脈動を伴っています.人工心臓によって拍動が無くなると様々な問題が生じるのではないか?と議論されています.例えば,一定流で人工心臓が多くの血液を送り続けると,大動脈弁が動かなくなり,大動脈弁不全のリスクの上昇が指摘されています.
また,心臓の拍動に合わせて人工心臓も適切に拍動を作り出すと,病気になった心臓の機能回復が促進される,との研究結果も報告されています.
そこで期待されているのが,心拍同期制御です.従来の研究では,心電図等を用いて心臓の拍動を計測し,人工心臓のモータ速度制御系にフィードバックすることで,心拍同期制御を実現していました.しかし,臨床応用を考えると,患者が常時心電図を装着して生活することは現実的ではありません.
これらの背景を踏まえ当研究室では,病気の心臓が作り出すわずかな拍動を磁気浮上インペラで検出し,人工心臓に搭載した機械学習プログラムによって拍動のタイミングを適切に判断することで,心電図等の外部センサを用いずに,心拍同期制御を実現する技術を研究しています.
磁気軸受やモータを用いた血栓検出と予防
人工心臓を構成する材料は人工物なので,血液が接触すると血栓が形成されてしまいます.これまでにも様々な抗血栓コーティングや血液適合性を有する材料が開発されてきましたが,その技術をもってしてもなお,完全に血栓を予防することはできません.
このため,臨床現場では”抗凝固薬”を患者に投与して血液が固まりにくくしていますが,逆に脳出血等のリスクも上昇してしまいます.
そこで当研究室では,磁気浮上するインペラを特定の周波数,特定の軌道で高速に微小変位加振させることで材料表面への血液粘着を阻害し,血栓を予防する技術を開発しています.さらに,この加振で得られるインペラの振動応答から,ポンプ内に発生した血栓を超早期に検知する技術も開発しています.
