-推力・磁力ハイブリッド浮上型人工心臓-

    概 要

人工心臓はインペラを回転させて血液循環を行う埋込型の医療機器で,重症心不全患者の治療に使われています.最新型の人工心臓では,インペラを磁気軸受や動圧軸受で浮上させることで,血液に優しく,かつ高い耐久性を実現しています.

このインペラ浮上技術によって,人工心臓装着患者の長期在宅治療(Destination Therapy)が実現しています. 本研究では,磁気軸受の利点である大ギャップ浮上と,動圧軸受の利点であるパッシブ浮上(能動的な制御を行わない浮上)を兼ね備えた,推力・磁力ハイブリット浮上機構を搭載した人工心臓の実現を目指します.



    二つの力を組み合わせた新しいパッシブ浮上方式


アーンショウの定理によって,永久磁石が発生する静磁場のみによる物体の全自由度の浮上は不可能であることが知られています.

物体の変位をフィードバックし,電磁石を用いて能動的に制御すれば浮上を実現できますが,センサや演算部が必要となります.

そこで本研究では推力と磁力を組み合わせることで,フィードバック制御を行わずに,インペラが回転すれば勝手に浮上する新しいパッシブ浮上方式を提案します.

インペラが回転すると血液を押し出しますが,その反作用として血液からインペラに作用する力が推力で,船の推進に利用されています.これを人工心臓に応用し,インペラがあたかもポンプ内で泳いでいるかのような状態で浮上を実現します.


    完全パッシブ浮上への挑戦

推力と磁力を組み合わせて回転体を安定に浮上させるためには,それぞれの力を上手くバランスさせる必要があります.

本研究では数値流体力学解析と磁場解析に基づくバランス設計や,実験計画法と3Dプリンティングを組み合わせた性能向上設計手法を開発しています.

本方式でインペラを浮上させた事例は過去に無く,世界初の浮上方式を搭載した人工心臓の実現を目指しています.